専門医療センター

大腿二頭筋 Myxofibrosarcoma 症例

大腿部粘液線維肉腫 T1bN0M0(佐藤)

40代の男性。3カ月前より腫瘤を自覚。
既往歴) 特記なし。坐骨神経症状なし。
MRI: T1 筋肉と同信号、T2 highで、一部出血を伴う腫瘍である。冠状断では上下方向にTail signを認める。二頭筋内に発生しており坐骨神経に近接している。

針生検を施行し、粘液線維肉腫の診断であったため、広範切除術を行った。 切除プラン:浸潤型発育を示す肉腫であり、近位、遠位方向ではT1Gdで造影される反応巣を全て含むように、深部では坐骨神経を温存する目的でIn situ preparation(以下ISP)を行うこととした。

原著ではビニールシートを用いるが、本症例はサージカルドレープを使用した。

坐骨神経と腫瘍を慎重に剥離

術後割面は腫瘍の露出なく、バリアがない部位は腫瘍から3cmの広範切除、バリアある部位は0 cm(筋膜のみ)の広範切除と判断した。病理組織学的にも断端陰性だった。

術後割面は腫瘍の露出なく、バリアがない部位は腫瘍から3cmの広範切除、バリアある部位は0 cm(筋膜のみ)の広範切除と判断した。病理組織学的にも断端陰性だった。

考察

神経血管に近接している腫瘍は現在の術前画像診断技術では浸潤の有無は分からないことが多々ある。ISPは2002年に松本らが初めて報告した手術手技であり、
・健常組織へ腫瘍を播種することなく
・神経血管を温存
・局所再発リスクを減らす
ことができる。また、2014年に阿江らは、「癒着のあるバリア単独で90%以上の局所制御可能となるためには、1cmの距離を要する」と報告しており、本症例で仮に術中に深部二頭筋筋膜と腫瘍が癒着していた場合、坐骨神経に対してISPせずに無治療で温存すると局所再発する可能性がやや高かったかもしれない。結果的には二頭筋筋膜と癒着はなかったため、アルコールや蒸留水での追加治療は不要と判断したが、腫瘍播種する危険性を減らして広範切除術が施行可能だった。

参考文献

Matsumoto S, Kawaguchi N, Manabe J, Matsushita Y; "In situ preparation": new surgical procedure indicated for soft-tissue sarcoma of a lower limb in close proximity to major neurovascular structures: Int J Clin Oncol. 2002 Feb;7(1):51-6.
Ae K1, Matsumoto S, Shimoji T, Tanizawa T, Gokita T, Sawamura C, Hayakawa K, Manabe J, Kawaguchi N; I. Evaluation of barrier structures in the surgical margin and its impact for local control. [Article in Japanese]; Gan To Kagaku Ryoho. 2014 Mar;41(3):296-302.