専門医療センター

がんロコモの治療

がんは、今や日本人の死因の第一位であり死因の約30% を占め、40歳代が17%、50歳代27%、60歳代29%、70歳以上19%と報告されています。骨盤、大腿骨、上腕骨、肋骨、脊椎などへ骨転移を起こすことがあり進行してから発見されることも多く、高齢者では常に疑って診察することが重要です。ひとたび“がん”が骨に転移して骨折を起こすと痛みによる機能障害が大きく、日常生活を行うことが困難になります。

近年、マスコミで盛んに報道されているロコモティブシンドロームとは、「運動器の障害により、要介護となる危険性の高い状態」で、実はがんの骨転移による骨折も大きな原因(がんロコモ)の一つとなっています。骨転移の治療は原発巣のコントロール状態、重大な転移巣や重篤な合併症の有無などによる全身的な評価に応じて決定していきます。全身状態が良好で長期生存が期待できる患者さんに対しては根治的な治療、全身状態が不良な際には腫瘍部をいじらずに内固定(姑息的な治療)を行っていきます。全身状態、転移・骨折部の状態に応じた適切なインプラントを選択することで、早期に日常生活に復帰することが可能になります。インプラントにはプレート、髄内釘、人工関節などが挙げられ、それぞれの特性を最大限に活かしながら患者さんに応じたテーラーメードの治療を行うことが重要です。テーラーメードの治療を行うには腫瘍に加えて骨折や人工関節までの幅広い知識と高い技術が必要となり、一般の病院では適切な治療を行うことができないことがあります。当科は腫瘍、外傷、関節外科の豊富な経験があることから、四肢へのがん骨転移に対して積極的な外科的治療を行っています。また、外科的な治療の補助として放射線照射(他院へ紹介)や骨修飾薬投与を行っていくことがあります。

診療は増井医師、阿部医師(帝京大学教授/外勤医師)が担当しています。
なお、当科では脊椎転移については治療を行っておりません。

千葉西総合病院整形外科主任部長/関節外科センター長 増井文昭

症例提示

症例1

症 例 47歳 女性、右乳がん、右大腿骨近位骨幹部切迫骨折
  • 放射線療法(40Gy)
  • 徐々に痛みが出現してきたため拡大掻爬術、髄内釘固定、抗がん剤混入骨セメント充填
術後2年9か月
  • 病的骨折、髄内釘近位部の折損
  • 放射線療法および抗がん剤混入骨セメント充填などによる骨壊死
手 術 髄内釘抜去、転子部骨組織温存、プレート・ワイヤリング固定、ロングステム人工骨頭置換
  • 出血量:796ml
  • 手術時間:4時間10分
  • 術後4年:杖なし歩行

症例2

症 例 55歳、男性、腎がん、上腕骨骨幹部病的骨折

橈骨神経が腫瘍近位で内側から後方・外側へ走行し、腫瘍に近接
手 術 広範切除(wide margin<3cm)、ダブルプレート固定(LCP)、抗がん剤混入骨セメント充填
  • 橈骨神経に注意しながら、腫瘍を露出しないように後方から外側を展開
  • イメージにて腫瘍を確認した上で1cm遠位にて上腕骨を骨切りして橈骨神経をよけて、腫瘍を一塊として切除
  • ダブルプレート固定後に骨欠損部に抗がん剤混入骨セメント充填
  • 手術時間:2時間19分
  • 出血量:859ml
  • 術後リハビリ:術後1日より自他動運動
  • 術後1年半で再発なし

症例3

症 例54歳 女性、子宮がん、大腿骨遠位骨幹部病的骨折

手 術広範切除(wide margin2cm)、腫瘍用人工膝関節置換術(ストライカー社製GMRS)
  • 中間広筋の筋膜直上で展開、大腿骨近位に正常組織を2cmつけて大腿骨遠位を一塊にして広範切除
  • 腫瘍用下肢再建システム(GMRS)を用いて膝関節を再建
  • 手術時間:2時間19分
  • 出血量:859ml
  • 術後リハビリ:術後2日可動域訓練、術後1週歩行訓練、可動域:0/120度

症例4

症 例 57歳 男性、肺がん、脛骨近位部病的骨折


腫瘍の広がり
  • 前方:前脛骨筋まで浸潤
  • 後方:ヒラメ筋まで浸潤、後脛骨動静脈に近接
  • 外側:腓骨動脈/腓骨神経に近接
手 術 脛骨近位辺縁切除+腫瘍用人工膝関節置換術(GMRS)
  • 一塊として切除後に腫瘍用下肢再建システム(GMRS)で膝関節を再建
  • Leeds Keio人工靭帯を腫瘍用人工膝関節に締結
  • Leeds Keio人工靭帯と膝蓋腱を縫合
  • 腓腹筋内側頭を大腿骨から切離し、前方へ移動してLeeds Keio人工靭帯と膝蓋腱に縫合
  • 鷲足/半膜様筋を内側関節包に縫合
  • 腓腹筋内側頭と前方伸筋群で腫瘍用人工膝関節/脛骨を被覆
  • 手術時間:3時間11分
  • 出血量:475ml
  • 術後リハビリ:術後2日可動域訓練、術後1週歩行訓練、可動域:0/120度
  • 術後放射線照射(40Gy)

症例5

症 例 65歳、女性、子宮がん、脛骨近位部病的骨折
手 術 脛骨近位広範切除+腫瘍用人工膝関節置換術(ストライカー社製HMRS)

・一塊として切除後に腫瘍用下肢再建システム(HMRS)で膝関節を再建
・Leeds Keio人工靭帯を腫瘍用人工膝関節に締結
・Leeds Keio人工靭帯と膝蓋腱を縫合
・腓腹筋内側頭を大腿骨から切離し、前方へ移動してLeeds Keio人工靭帯に縫着

・手術時間:3時間50分
・出血量:400ml
・術後リハビリ:術後2日可動域訓練、術後1週歩行訓練、可動域:0/90度

症例6

症 例 76歳、男性、多発性骨髄腫、右上腕骨骨幹部病的骨折
壁に右上腕部をぶつけて痛みを自覚し、当科を受診、来院時のレントゲンで右上腕骨骨幹部病的骨折の診断にて切開生検術を施行
  • 病理診断:多発性骨髄腫
  • 腫瘍マーカー:IL-2レセプター536U/ml 、M蛋白/IgG-κ型
  • 血液内科依頼:全身化学療法
  • 局所治療:上腕硬性装具
  • 血液内科での全身化学療法前に家族の頭にぶつかり左上腕骨遠位骨幹部病的骨折を併発、右上腕骨骨幹部病的骨折には仮骨形成
  • 右上腕骨骨幹部病的骨折に仮骨形成を認め、化学療法に反応すれば骨癒合の可能性大
  • 化学療法5週目に左上腕骨遠位骨幹部病的骨折(利き手)に対して観血的整復固定術
手 術 仮骨形成、約1㎝の短縮転位を認め、ある程度の短縮は許容して骨折部を架橋固定
  • 肘頭窩近位縁から骨折までの距離40.6mm


  • 手術時間:1時間19分
  • 出血量:266 ml
  • 術後リハビリ:術後2日自動運動、術後5日他動運動、可動域:-30/105度

症例7

症 例67歳、女性、乳がん、大腿骨頚部病的骨折
  • 乳がん術後(化学療法中)
  • 骨折前PS:1
  • 患者希望:仕事があり、1年は歩いて働きたい
  • 大腿骨・坐骨・臼蓋に骨転移
手 術大腿骨:大腿骨末梢まで髄内転移を認め、通常型人工骨頭(セメントロングステム、抗がん剤混入セメント使用)で置換、臼蓋:中心性脱臼のリスクあり、軟骨下骨を極力温存してカップサポート・セメントカップ固定
  • 保存治療
    • 放射線照射
    • 薬物療法
    • 抗RANKL抗体
  • 出血量:700ml
  • 手術時間:2時間20分
  • 術後リハビリ:術後2日車いす、歩行訓練

症例8

症 例81歳、女性、乳がん、上腕骨遠位端病的骨折

手 術辺縁切除術+人工肘関節置換術(ストライカー社製SOLAR)
  • 腫瘍用人工肘関節(HMRS):関節面から80mm切除、最小ステム径9mm
  • 腫瘍:関節面から46mm、髄腔径7.9mm
  • 髄腔が細く/腫瘍長が短く、腫瘍用人工肘関節は使用できないため、通常の人肘関節(SOLAR)で再建(ステム折損リスク軽減のため、短縮)



  • 手術時間:133分
  • 出血量:190ml
  • 術後リハビリ:術後1日より自他動運動
  • 術後1年時の可動域:0/125度

症例9

症 例 67歳、男性、腎がん、広範切除+髄内釘固定(58歳時、上腕骨近位骨幹部病的骨折)後のインプラント折損
術後9年 転倒時に患側で手をつき、髄内釘遠位スクリュー折損

髄内釘遠位スクリューの折損と短縮転位
手 術 ダブルプレート固定、抗菌薬混入骨セメント充填
  • 上腕動脈の走行異常:遠位骨幹部で前方にシフトし、上腕二頭筋/上腕筋間に介在
    • 前方の上腕二頭筋/上腕筋間にシフトした上腕動脈をよける外側弧状皮切で展開
      • 骨欠損部の髄内釘を露出
      • 牽引をかけて上肢長を戻し、外側からシンセス社製PHILOSで架橋固定
      • 外側からシンセス社製PHILOSで架橋固定
      • 前方からLCP smallでdouble plating
      • 骨欠損部に抗菌薬混入骨セメント充填
      • 手術時間:90分
      • 出血量:100ml
      • 術後リハビリ:術後1日より自他動運動

症例10

症 例 65歳、男性、腎がん、左大腿骨転子下病的骨折/右大腿骨小転子・骨幹部骨転移/右鎖骨骨転移

左大腿骨転子下病的骨折

右大腿骨小転子/骨幹部に転移巣
手 術
左大腿骨転子下病的骨折
掻爬、髄内釘固定、抗菌薬混入骨セメント充填
  • 手術時間:1時間11分
  • 出血量:390 ml
  • 術後リハビリ:術後2週歩行訓練
  • 術後放射線療法(40Gy)
  • 長期的にインプラント折損リスク
手 術
右大腿骨
放射線照射(40Gy)後に予防的髄内釘固定
  • 荷重肢/骨折予防
  • 手術時間:1時間26分
  • 出血量:50 ml
  • 術後リハビリ:術後1日歩行訓練

症例11

症 例 67歳、男性、肺がん、上腕骨近位部病的骨折
手 術 拡大掻爬、プレート固定、抗がん剤混入骨セメント充填
  • 前外側皮切で展開、腫瘍を露出
  • 拡大掻爬後にプレートで固定
  • 骨欠損部に抗がん剤混入骨セメント充填

症例12

症 例 51歳、女性、乳がん、上腕骨骨幹部病的骨折
手 術 拡大掻爬、髄内釘固定、抗がん剤混入骨セメント充填
  • 拡大掻爬後に髄内釘固定
  • 骨欠損部に抗がん剤混入骨セメント充填

症例13

症 例 48歳、女性、乳がん、大腿骨近位部病的骨折
手 術 辺縁切除、人工骨頭置換術