整形外科

大腿骨近位部軟骨肉腫の切迫骨折に対する広範切除後に人工靱帯による外閉鎖筋再建を併用した腫瘍用人工骨頭置換術を施行した1例

増井文昭、阿部哲士、斎藤雅人、伊藤吉賢、白旗敏克

要旨

大腿骨近位部軟骨肉腫の切迫骨折症例に対して広範切除後に人工靱帯による外閉鎖筋の再建を併用した人工骨頭置換術を施行した。筋緊張の低下や回旋筋群の切除により危険動作回避能力が低下している症例は脱臼リスクが高い。脱臼予防に最も重要なことは脱臼肢位の患者教育であるが、特に回旋筋群を切除した症例は無意識に脱臼肢位になる可能性がある。外閉鎖筋は股関節屈曲90度で強力に内旋を制動していることから、軟部組織を広範に切除した症例では外転筋の再建に加えて人工靭帯による外閉鎖筋の再建も検討すべきである。

はじめに

腫瘍用人工骨頭置換術の外科的工夫に関する報告は外転筋の再建に関するものが多く、脱臼予防に関する報告は少ない。我々は大腿骨近位部軟骨肉腫の切迫骨折症例に対して広範切除術後に人工靱帯による外閉鎖筋の再建を併用した人工骨頭置換術を施行した。筋緊張の低下や回旋筋群の切除により危険動作回避能力が低下している際は無意識に脱臼肢位になる危険性がある。今回、軟部組織が広範切除された症例に対して人工靱帯を用いた外閉鎖筋の再建による後方脱臼の予防を行ったので術後成績について報告する。

症例

71歳、男性

既往症

Maffucci症候群

経過

1年前より左股関節痛出現し、歩行時痛が増強してきたため当科を受診した。単純X線画像で大腿骨近位部に骨硬化および骨融解像(図1)、CT画像で大腿骨近位部に骨折線が認められた(図2)。MRIT2強調画像で大腿骨に高信号を示す髄内病変と大腿骨後方/外側に高信号を呈する軟部腫瘤を認め、大転子頂部からの距離はそれぞれ120mm、165mmであった(図3)。以上から、大腿骨近位部内軟骨腫の2次性悪性化および切迫骨折を疑い、切開生検術を施行した。病理組織検査結果はGrade1〜2軟骨肉腫の診断で、広範切除および腫瘍用人工骨頭置換術を施行した。

術前切除縁計画:図4

  • 中殿筋:大転子付着部で切離
  • 外側広筋:大転子頂部から200mm遠位で全切除
  • 回旋筋群切除
  • 近位関節包温存:術後縫合
  • 大腿骨:大転子頂部から160mm遠位で骨切り
  • 後方腫瘍部分は可能な限り筋肉をつけて切除
  • 大腿骨近位: Global modular replacement system;以下、GMR:Stryker Orthopaedics, Kalamazoo, Michigan)で再建
  • 坐骨にLeeds Keio靭帯をステイプルで固定、外閉鎖筋の走行に沿い股関節中間位で人工骨頭に巻きつけて固定
  • 中殿筋をLeeds Keio靭帯およびITTに縫合

術中経過

手術時間:3時間3分、術中出血量:680ml
生検術の皮切を紡錘形に切除する長い後方アプローチで展開した。中殿筋を大転子付着部から切離、外側広筋を大転子頂部から200mm遠位で切離した。大腿骨遠位を大転子頂部から160mm遠位で骨切りした後に遠位を拳上しながら内側および後方の展開を行った。大腿骨近位後方は回旋筋群を腫瘍側につけて切除、関節包の近位は温存して一塊として広範切除を施行し、大腿骨は腫瘍用人工骨頭(Stryker社製GMRS)にて再建した(図5)。外閉鎖筋を再建するために坐骨にLeeds Keio靭帯をステイプルで固定し、外閉鎖筋の走行に沿って股関節中間位で人工骨頭に巻きつけて固定した(図6)。さらに股関節中間位で中殿筋をLeeds Keio靭帯およびITTに縫着し、関節包を縫合した(図7)。術中、股関節屈曲90度で徒手的に内旋強制しても過度な内旋は制限され、脱臼を認めず股関節は安定していた。

術後経過

術後1日車いす、3日起立歩行訓練にてリハビリを施行し、術後1年の現在、脱臼を認めず1本杖歩行中である(図8)。

考察

大腿骨近位部悪性骨腫瘍の手術に対して広範切除術を施行した際、人工骨頭・関節置換術による再建が行われる。通常、後方アプローチで行われることが多く、術後の脱臼が問題となる。通常の人工骨頭の脱臼率は1.5〜13.4%とされ、術後の脱臼予防には後方軟部組織の修復が重要と言われる。脱臼の多くは股関節周囲軟部組織が修復される術後3か月までに発生する。大腿骨近位部悪性骨腫瘍の手術では腫瘍の骨内および骨外への拡がりにより、切除される骨および軟部組織の量は様々である。骨内に限局した腫瘍は軟部組織が温存できるため、通常の人工骨頭置換術と遜色ない術後成績が得られる。一方、骨外へ大きく拡がっている症例は骨組織に加えて関節の安定に関与する筋肉が広範に切除されるため、術後の筋力低下と関節不安定性が問題となる。腫瘍用人工骨頭の術後脱臼率は1.7~20%で筋肉や関節包の切除量に影響され、予防には外転筋および外側広筋の修復が重要とされている1〜4)。術後機能は温存できる骨・軟部組織の量と人工材料を用いた再建方法に影響される。人工材料は骨再建の人工骨頭と軟部再建の人工靭帯やメッシュが挙げられる。人工骨頭は再置換用人工骨頭と腫瘍用人工骨頭が使用される。人工骨頭の良好な術後機能獲得には中殿筋のレバーアームの再建が重要で、中殿筋・外側広筋付着部骨組織を一塊として温存できる際は再置換用人工骨頭を用いることで良好な術後成績が得ることが可能である5)。中殿筋・外側広筋付着部骨組織が温存できない際は中殿筋・外側広筋をそれぞれ大腿骨から切離することになる。再置換用人工骨頭を用いる際は中殿筋・外側広筋付着部が内方化されるため縫縮が必要になり、加えて中殿筋のレバーアームが減少するために股関節の不安定性は大きくなる。腫瘍用人工骨頭では中殿筋のレバーアームを正常に戻すために近位外側部分がせり出ているタイプの腫瘍用人工骨頭などのバリエーションがあり、さらにオフセットを長めにすることにより中殿筋を機能的に再建することも可能である。外転機構の再建方法としては中殿筋・外側広筋付着部が温存できればITTに縫着することで良好な成績が得られる。軟部組織の切除量が多い症例は股関節周囲筋(中殿筋)と関節包を人工靭帯やメッシュで補強することが必要になる6)。中殿筋、外側広筋が付着部より切離された際はダクロンメッシュ、ゴアテックスメッシュ、Leeds Keio靭帯などで人工骨頭に縫着するが6)、患肢の重みにより牽引がかかるため関節包の補強や再建をすることも重要である。

大腿骨近位部の切除は原発性悪性骨腫瘍のほかに、高齢者に好発する転移性骨腫瘍の病的骨折(がんロコモ)に対しても施行され、認知症、向精神薬服用、筋力低下などによる筋緊張の低下が問題となる。アルコール飲酒、認知症、向精神薬服用など様々な要因で筋緊張が低下している高齢症例や回旋筋群を切除している症例は危険動作回避能力が低下していると思われる。脱臼予防に最も重要なことは脱臼肢位の患者教育(股関節屈曲位で過内旋位にさせないこと)であるが、特に回旋筋群を切除した高齢症例は回旋運動の自己制御が困難なため、無意識に脱臼肢位をとる可能性がある。股関節の脱臼予防には回旋筋群が関与しているといわれ、梨状筋は浅屈曲・内転・内旋、他の短外旋筋群は浅~深屈曲・内転・内旋で作用するとされている7,8)。特に外閉鎖筋は屈曲90度で強力に内旋を制動し、後方進入での人工股関節置換術の脱臼予防における外閉鎖筋と関節包などの後方軟部組織修復の有用性も報告されている9,10)。腫瘍用人工骨頭置換術の外科的工夫に関する報告は外転筋の再建に関するものが多く、通常の人工骨頭よりも脱臼が高頻度に発生するにもかかわらず、術後の脱臼予防についての報告は少ないのが現状である。Leeds-Keio 人工靭帯はscaffold 型のポリエステル製のメッシュ構造をもつ人工靭帯で引っ張り強度が約2200Nと十分な強度があり、股関節の早期可動域訓練時の負荷に十分に耐えることが可能である。人工靭帯の問題点は組織誘導性に個人差が大きい、慢性滑膜炎、関節水症、断裂(5〜10%)などが挙げられる11)。腫瘍用人工骨頭置換術を施行した際は骨・軟部組織の合併切除により、通常の人工骨頭・関節置換術より脱臼リスクは高くなる。関節包は術後3か月で再生されると言われており、この間、Leeds-Keio 人工靭帯による外閉鎖筋の再建で股関節屈曲・内旋を強く制動することは術後の脱臼予防に有用と思われる。今回、我々は腫瘍用人工骨頭の脱臼予防に着目し、人工靭帯による外閉鎖筋の再建を行った。股関節屈曲90度で強力に内旋を制動する外閉鎖筋の作用を再建するため、Leeds Keio靭帯を坐骨にステイプルで固定し、股関節中間位で外閉鎖筋の走行に沿うように人工骨頭に縫着した。術中、股関節屈曲90度で徒手的に内旋強制しても過度な内旋位をとらずに股関節は安定しており、術後1年の経過であるが良好な術後成績が得られていた。今後、がんロコモ患者の増加に比例して大腿骨近位部病的骨折患者も増加すると考えられる。危険動作回避能力が低下している高齢症例や回旋筋群を含めた大腿骨近位部筋群を切除した症例に対して人工靭帯による外閉鎖筋の再建は術後の脱臼予防に有用と考えられた。

参考文献

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    Endoprosthetic reconstruction for neoplasms of the proximal femur.
    Clini Orthop Relat Res 2006;450:46-51.
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    Endoprosthetic Reconstruction in 250 Patients with Sarcoma.
    Clini Orthop Relat Res 2006; 450:164-171.
  3. Kabukcuoglu Y, Grimer RJ, Tillman RM, et al
    Endoprosthetic replacement for primary malignant tumours of the proximal femur.
    Clini Orthop Relat Res 1999;358:8-14.
  4. Rahman MA, Bassiony AA, Mashhour A
    The use of Modular Endoprosthesis for Tumors of Tumors of the Proximal Femur
    The Egyptian Orthopaedic Journal 2010;45:137-146.
  5. 増井文昭、阿部哲士、佐藤健二ほか.
    大腿骨近位部転移性骨腫瘍に施行した髄内釘の折損例に対して、近位部筋付着部骨組織を一塊として温存したロングステム人工骨頭置換術を行った一例
    骨折 2016;38(1): 198-201.
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    人工骨頭置換術における外旋筋温存後方アプローチ
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    骨折 2015;37(2):359-361.
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    後方進入THA後の脱臼予防における後方軟部組織修復の効果-外閉鎖筋を含めた短外旋筋群と関節包の修復
    関節外科 2014;33(7):700-704.
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    後方進入THAにおける後方軟部組織修復が術後の内旋可動域に与える影響-外閉鎖筋修復群と非修復群の比較-
    Hip Joint 2012;38:510-512.
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    Leeds-Keio人工靭帯によるACL再建術の成績
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図表説明

図1 単純X線画像
大腿骨近位部に骨硬化および骨融解像を認める

図2 CT画像
大腿骨近位部に骨折線を認める

図3 MRIT2強調画像
大腿骨骨内高信号を呈する髄内病変と大腿骨後方/外側に高信号を呈する軟部腫瘤を認め、大転子頂部からの距離はそれぞれ120mm、165mmである。

図4 術前切除縁設定

図5 術中写真
生検術の皮切を紡錘形に切除する長い後方アプローチで展開し、腫瘍を一塊として広範切除後に、腫瘍用人工骨頭で再建する。

図6 術中写真
坐骨にLeeds Keio靭帯をステイプルで固定し(☆)、人工靭帯を股関節中間位で外閉鎖筋の走行にあうように人工骨頭に縫着する(△)。

図7 術中写真
坐骨(☆)に固定されたLeeds Keio靭帯を股関節外転位で中殿筋腱内(△)に縫合する。

図8 術後X線画像
Leeds Keio靭帯を坐骨に固定したステイプル(☆)