整形外科

人工骨頭置換術における下双子筋近位の外旋筋群温存後方アプローチと外閉鎖筋・関節包の修復による後方脱臼予防

増井文昭、為貝秀明、斎藤雅人、宮本亘*、黒住健人**、阿部哲士*
千葉西総合病院整形外科・関節外科センター、*帝京大学整形外科、**帝京大学外傷センター

要 旨

今後、高齢化社会が進むにつれ、大腿骨近位部骨折はさらに増加するものと考えられる。人工骨頭置換術は後方アプローチで行われることが多く、後方軟部組織を切開して展開されるため、術後の後方脱臼のリスクが問題として挙げられる。近年、行われている前方アプローチは後方要素が温存されるため脱臼のリスクが軽減されるが、手技の習得にラーニング時間を要するカーブがあることや術中骨折のリスクが問題とされている。今回、我々は下双子筋より近位の外旋筋群と関節包を温存して人工骨頭を挿入し、さらに外閉鎖筋と関節包を修復する手術工夫を行い、良好な成績が得られた。高齢な大腿骨頚部骨折患者は、認知症、向精神薬服用などによる危険動作回避能力の低下や筋緊張低下のための脱臼リスクが高く、本術式は後方脱臼の予防に有用と考えられた。

はじめに

近年、人口の高齢化に伴い人工骨頭置換術を受ける患者は増加傾向にある。人工骨頭置換術は比較的若手の医師から執刀し、後方アプローチで行われることが多い。後方アプローチは術後脱臼の問題はあるが簡便な進入方法で、かつ必要に応じて骨盤から大腿骨遠位まで展開できる長所があるため、整形外科医として必ず習得すべきアプローチの一つである。高齢者は筋腹の菲薄化、筋緊張の低下、認知症等により後方脱臼のリスクは高い。今回、術後の後方脱臼リスクを軽減するため、下双子筋より近位の外旋筋群を温存する後方アプローチと外閉鎖筋・関節包の修復を行う術式を考案したので術後成績について報告する。

対 象

当科で行った人工骨頭置換術症例のうち、下双子筋より近位の外旋筋群を温存する後方アプローチと外閉鎖筋・関節包の修復を行った8例である。性別は男性1例、女性7例、受傷時年齢65~95歳(平均年齢82.6歳)であった。8例のうち、向精神病薬服用を4例に認めた。これらの症例について、手術時間、出血量、術中の外閉鎖筋・関節包修復前の股関節屈曲60度・内旋90度での脱臼有無と屈曲90度での脱臼内旋角度、下双子筋より近位の外旋筋群の断裂、術後6か月時の脱臼有無について検討を行った。

手術手技

  • 後方進入する。
  • 大腿方形筋近位を1/3~1/2程度切離する。
  • 下双子筋と大腿方形筋間を確認した上、下双子筋より近位の外旋筋群(下双子筋・内閉鎖筋・上双子筋共同筋腱および梨状筋)を近位へレトラクトする(図1、2)。
  • 外閉鎖筋を切離、下双子筋よりやや近位で下双子筋と平行に関節包・坐骨大腿靭帯を切開する(図3)。
  • 関節包・坐骨大腿靭帯を切開した後に骨頭抜去する(図4)。
  • トライアルを挿入する。
  • 試験整復(この際、助手は小筋鈎あるいは二双鈎で外旋筋群・関節包を近位へよけ、股関節軽度屈曲位にて下肢を牽引し、術者が骨頭を前下方へ押し込む)を行う。
  • 屈曲、伸展、内・外旋でインピンジメントや筋緊張を確認して安定性、脚長を評価する(図5)。
  • 股関節屈曲30度・内外転0度・内外旋0度で外閉鎖筋・関節包を大腿骨および近位関節包にファイバーワイヤーで強固に縫合する(図6)。

結 果

手術時間は38~70分(平均49.6分)、最も時間が長かった初回手術例を除くと平均手術時間は46.7分であった。出血量は50~240ml (平均125.8ml)で、初回手術例は手技に慣れてなかったため手術時間が長く、最も出血量(240ml)が多かった。初回手術例を除くと平均出血量は109.4mlであった。術中試験整復時、股関節屈曲60度・内旋90度で、全例、脱臼を認めなかった。股関節屈曲90度では内旋角度が増えるにつれて骨頭が下双子筋より近位の外旋筋群を後方に突き上げるようになり最終的に平均内旋85度(80~90度)で脱臼を認めた。全例で下双子筋より近位の外旋筋群の断裂と術後6か月時の脱臼は認めなかった。

症 例

95歳 女性

主 訴

右股関節痛

既往歴

特になし、向精神病薬服用なし

現病歴

歩行中に転倒して股関節部を強打し、歩行困難となり当科を受診した。初診時単純レントゲンで大腿骨頚部骨折を認め(図7)、受傷2日目に人工骨頭置換術を施行した(手術時間45分、術中出血量150ml)(図8)。術後2日より起立歩行訓練を開始、術後6か月の現在、全荷重歩行中で脱臼も認めていない。

考 察

人工骨頭置換術は後方アプローチで行われることが多いが、術後脱臼の問題がある。脱臼率は1.5〜13.4%とされ、脱臼の多くは股関節周囲軟部組織が修復される術後3か月までに発生する。術後の脱臼予防には後方軟部組織の修復が重要と言われ、梨状筋は浅屈曲・内転・内旋、他の短外旋筋群は浅~深屈曲・内転・内旋で作用するとされている1,2)。特に外閉鎖筋は屈曲90度で強力に内旋を制動し、後方進入THA後の脱臼予防における外閉鎖筋と関節包などの後方軟部組織修復の有用性も報告されている3,4)。さらに、KimらはTHAにおいて短外旋筋群を一部温存する方法を報告し、本邦においても外旋筋群を温存した手術の良好な術後成績が報告されているが、問題点として整復困難や牽引による下双子筋断裂などが挙げられる1,2)。これまで我々は共同筋腱を切離して人工骨頭を挿入し、整復後に共同筋腱と外閉鎖筋・関節包をファイバーワイヤーにて大腿骨へ強固に縫合、固定する方法を行ってきた。当院は80歳以上の高齢者の手術症例も多く、認知症、向精神薬服用などによる危険動作回避能力の低下や筋緊張の低下による脱臼リスクの問題があり、下双子筋より近位の外旋筋群を温存する手技へ改良を行った。本改良の主なポイントは大腿方形筋の近位1/3~1/2程度、関節包、外閉鎖筋を切離することで下双子筋より近位の外旋筋群を切離せずに、骨頭整復に十分なworking spaceを股関節下方に確保ができ、さらに関節包と坐骨大腿靭帯を下双子筋下縁に沿って切開することで、外転・内旋で緊張し、後方脱臼の強力な防御要素である坐骨大腿靭帯が温存できることである3,5)。高齢者は若年者と比較して殿筋群・外旋筋群筋腹は菲薄化し、さらに向精神病薬を服用していることが多いため術後脱臼のリスクが高い短所があるが、逆に筋腹が薄く、筋緊張が低下していることで整復操作時に下方に十分な牽引がかけられる長所もある。今回の検討で、高齢者は下双子筋より近位の外旋筋群を切離しなくても、整復操作時に十分に下方へ牽引することで人工骨頭置換術が可能であった。また、殿筋群・外旋筋群筋腹が大きい症例は整復操作にやや難渋することがあったが、下方への十分な牽引に加えて、術者が骨頭を前下方へ押しだすことで、比較的容易に整復が可能であった。本術式は術中安定性に優れ、術後脱臼を認めなかったことから、殿筋群・外旋筋群筋腹が菲薄化している高齢者や向精神病薬を服用して筋緊張が低下している患者に有用と考えられた。

まとめ

1:下双子筋より近位の外旋筋群を温存する後方アプローチと外閉鎖筋・関節包の修復は人工骨頭置換術の後方脱臼予防に有用と考えられた。

2:殿筋群・外旋筋群筋腹が大きい症例では整復操作に難渋することがあるが、下方への牽引に加えて骨頭を前下方へ押しだすことで整復が可能であった。

3:本術式は殿筋群・外旋筋群筋腹が菲薄化している高齢者や向精神病薬を服用して筋緊張が低下している患者に有用と考えられた。

参考文献

1)植田成実、百名克文、玉置康之ほか.
人工骨頭置換術における外旋筋温存後方アプローチ
骨折 2012; 34(3): 551-555.
2)中川明彦、上田秀範、青木良記ほか.
人工骨頭挿入術の後方進入における手術の工夫
骨折 2015; 37(2): 359-361.
3) 藤井英紀、 大谷卓也、上野豊ほか.
後方進入THA後の脱臼予防における後方軟部組織修復の効果-外閉鎖筋を含めた短外旋筋群と関節包の修復
関節外科 2014; 33(7): 700-704.
4)藤井英紀、大谷卓也、川口泰彦ほか.
後方進入THAにおける後方軟部組織修復が術後の内旋可動域に与える影響-外閉鎖筋修復群と非修復群の比較-
Hip Joint 2012; 38 :510-512.
5)荒文博、青田恵郎、大橋寛憲ほか.
後方進入THAに対する後方軟部組織修復-股関節内旋制動効果の経時的変化-
Hip Joint 2012; 38 :513-516.

図表説明

図1:下双子筋・大腿方形筋間を確認

図2:下双子筋より近位の外旋筋群を近位へレトラクト

図3:関節包・坐骨大腿靭帯切開
下双子筋よりやや近位で下双子筋と平行に関節包・坐骨大腿靭帯を切開
(矢印:坐骨大腿靭帯・関節包切開線、図:プロメテウス 解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版より引用)

図4:骨頭抜去

図5:試験整復後に安定性、脚長を評価
下肢を牽引し、骨頭を前下方へ押し込んで試験整復後に
屈曲、伸展、内・外旋でインピンジメントや筋緊張を
みながら安定性評価

図6:外閉鎖筋・関節包の修復
外閉鎖筋(コッヘルにて把持)・関節包を大腿骨および近位関節包にファイバーワイヤーで強固に縫合

図7:術前レントゲン

図8:術後レントゲン