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上腕動脈外膜損傷を合併した上腕骨近位端骨折損傷

上腕動脈外膜損傷を合併した上腕骨近位端骨折損傷(増井)

症例 46歳、男性、上腕骨近位端粉砕骨折(遠位骨片の近位内側転位症例)
Walk inで紹介受診、Hard sign陰性、Soft sign一部陽性(1/8項目:主要血管近くの損傷)
術前レントゲン・CT 上腕骨近位端粉砕骨折を認め、遠位骨片が近位内側に大きく転位している
上腕動脈が大きく転位した遠位骨片に圧排されている
術中所見
  • 近位内側へ転位した遠位骨片をエレバトリウムで整復した直後に、上腕近位内側から出血
  • 鉗子/ガーゼ圧迫にて止血
  • 肉眼所見/診断:転位した遠位骨片による外膜損傷(圧迫にて止血したが、心臓血管外科にて外膜縫合施行)
  • 手術時間:2時間24分
  • 止血後、LCPにて整復固定
術後レントゲン
上腕動脈外膜損傷を合併した上腕骨近位端骨折 I 術前血管損傷を疑う臨床所見
1:Hard sign
活動性外出血、拍動する血腫の増大、末梢拍動消失、麻痺、蒼白、知覚異常、疼痛
2:Soft sign
受傷時の多量出血、末梢拍動減弱、神経損傷、主要血管近くの損傷、小~中等度の非拍動性血腫、神経損傷、他に説明のつかない低血圧

II “動脈損傷を伴う上腕骨近位端骨折”の文献的考察
*症例報告を散見するだけで極めて稀
*Hard sign/Soft signの臨床症状の確認が重要
*Hard sign陽性例
・血管造影
・造影CT
・血管外科で血管再建
*Hard sign陰性/Soft sign陽性例
・万一に備えて血管外科との速やかな連携ができるように準備
*血管損傷種類
・断裂/壁損傷
・外膜損傷
・内膜損傷
・仮性動脈瘤:外膜損傷後、分枝の引き抜き損傷。診断まで受傷から2週間~5ヶ月
*過去の報告例
・1例:上腕骨頭腋窩脱臼症例で上腕動脈の分枝損傷あり、選択的動脈塞栓術
・3例:2例はHard sign陽性でバイパス術、1例は仮性動脈瘤症例でステントグラフト挿入
・上腕骨近位端骨折患者30例中7例が神経血管束に近接し、大きな転位を認めるAO11-A3症例は術前から動脈損傷の可能性