整形外科

上腕骨遠位骨幹部骨折に対してLong-Proximal humerus LCP(Long PHILOS)を用いて観血的整復固定術を行った3例:臨床雑誌整形外科掲載論文原文

増井文昭、斎藤雅人、尾立和彦、伊藤吉賢、為貝秀明、白旗敏克
千葉西総合病院整形外科・関節外科センター

はじめに

上腕骨遠位骨幹部骨折は比較的少ない骨折型で遠位骨片にscrewが挿入できる部分が限られるため内固定材の選択に迷うことがある。通常、内固定材としてLocking compression plate(以下、LCP)が選択され、narrow-LCPが用いられることが多い。遠位骨片を2本以上のbicortical locking screwで固定することが好ましいとされるが、上腕骨遠位骨幹部は高い負荷が加わる部位であることから2本のbicortical locking screwで固定性が十分とは言えない。新しいLCPはいまだ開発されていないため、我々も上腕骨遠位骨幹部骨折に対してnarrow-LCP と2本以上のbicortical locking screwでの固定を行ってきた(表1)。今回、我々は遠位骨片が短い(肘頭窩近位縁から骨折までの距離が50㎜以下)上腕骨遠位骨幹部骨折に対して遠位骨片の固定性を高めるため上腕骨近位部骨折・骨幹部骨折用に開発されたLong PHILOSを反転使用して内固定術を行ったので、術後成績について報告する。

症例1:29歳、男性

野球試合中にボールを投げた際に受傷、当科を受診した。上腕骨遠位骨幹部骨折(AO12B1、肘頭窩近位縁から骨折までの距離47.8㎜)の診断にてLong PHILOSを用いた観血的整復固定術(absolute stabilityを目的としてlag screw+LCPによる固定、遠位骨片に6本のbicortical locking screw挿入、手術時間:1時間15分、出血量:230ml)を施行した(図1、2)。術後2日目より自他動運動を施行し、術後5か月の現在、可動域は0/130度で骨癒合が得られている。

症例2:76歳、男性

壁に上腕部をぶつけて痛みを自覚し、当科を受診した。来院時のレントゲンで右上腕骨骨幹部病的骨折(AO12A3)の診断にて開放生検術を施行した。病理結果が多発性骨髄腫の診断であったため、装具療法による保存治療とし、血液腫瘍内科で化学療法を開始した。化学療法開始後、軽微な外力で左上腕骨遠位骨幹部病的骨折(AO12A1)を併発した。シーネ固定にて化学療法を継続、左利きで骨折部の痛みによるADL障害が認められた為、受傷2か月時に左上腕骨遠位骨幹部病的骨折(AO12A1、肘頭窩近位縁から骨折までの距離40.6㎜)に対してLong PHILOSを用いた観血的整復固定術(仮骨形成と短縮転位を認めたためrelative stabilityによる固定、遠位骨片に6本のbicortical locking screw挿入、手術時間:1時間20分、出血量:266ml)を施行した(図3、4、5)。術後2日目より自他動運動を施行し、抜鈎後に化学療法を開始した。術後8か月の現在、著明な外仮骨を形成して骨癒合が得られている。

症例3:54歳、女性

階段より転倒して受傷、当科を受診した。上腕骨遠位骨幹部骨折(AO12B、肘頭窩近位縁から骨折までの距離16.5㎜)の診断にてLong PHILOSを用いた観血的整復固定術(absolute stabilityを目的としてlag screw+LCPによる固定、遠位骨片に5本のbicortical locking screw挿入、手術時間:2時間45分、出血量:150ml)を施行した(図6、7)。術後2日目より自他動運動を施行し、術後14か月の現在、可動域は0/135度で骨癒合が得られている。

考察

上腕骨遠位骨幹部骨折はAO分類の正方形法による遠位部を除く骨幹中間部から遠位骨幹端部の骨折である。発生頻度が比較的少なく、遠位骨片にscrewが挿入できる部分が限られるため髄内釘、Ender釘、narrow-LCPのいずれの内固定材を選択するか迷うことがある1.2.3.4.5)。内固定材を選ぶ際、遠位骨片に何本のscrewが挿入できるかが重要となる。髄内釘を選択する際は遠位骨片に横止めscrewが最低2本挿入することが必要と報告されているが、回旋固定性を高めるためには3本以上のscrew固定が望まれる。さらに遠位骨片が小さい時は術中骨折のリスクがあり、横止めscrewが2本以上挿入できない場合はLCPを用いた固定の適応となる4.6)。骨折部の安定性はplateの幅・厚、screwの径・本数に大きく影響される。上腕骨遠位骨幹部骨折のために開発された内固定材はないため既存のplateを工夫した内固定が行われ、通常、強い強度のnarrow-LCPが用いられている。遠位骨片が短くてもlag screwが挿入できれば2本のbicortical locking screwによる固定で早期の可動域訓練が可能とされている4)。一方、absolute stabilityを目的にlag screw+LCPによる内固定を行った症例の中にirritation callusと思われる外仮骨を認める症例があり、遠位骨が小さく3本のscrewが挿入できない、骨折線が関節近傍にまで及ぶ症例に対してはreconstruction-LCP遠位部をbendingして肘頭窩擁側に設置固定する報告もされている4)

LCPの中である程度の幅と厚みがあり強度的に問題がなく上腕骨遠位骨幹部骨折に使用できる内固定材として上腕骨近位部骨折・骨幹部骨折用LCP(Long PHILOS)、大腿骨近位用LCP、脛骨近位外側用LCP、脛骨遠位内側/前方用LCPなどが挙げられる。この中で遠位骨片に多くのlocking screwが挿入でき、上腕骨遠位骨幹部の形状に合うものとしてLong PHILOSが考えられる。Narrow-LCP、reconstruction-LCP、Long PHILOSのLCP端より50㎜までに挿入できるスクリュー本数はnarrow/reconstruction-LCPは3本、Long PHILOSは10本となっている。Screw 径はnarrow-LCPは5.0㎜(ラージ規格)、reconstruction-LCP/ Long PHILOSは3.5㎜(スモール規格)となっている(図8)。3.5㎜ screw径は5.0㎜ screw径の70%でscrew径比による単純な比較では3.5㎜径 screw3本は5.0㎜径 screw2本に相当し、遠位骨片に5本以上(5.0㎜径 screw3本に相当)の3.5㎜径locking screwが挿入できれば十分な固定性が得られると考える。また、Long PHILOSは強い負荷が加わる上腕骨近位部骨折のために開発され、plate幅・厚はnarrow-LCPの89%で長めのLong PHILOSを選択して力学的負荷を分散させることで十分な固定性が得られると考える。今回、肘頭窩近位縁から骨折までの距離が50㎜以下(narrow-LCPで固定した際に挿入できるlocking screw本数:2本)の遠位骨片が短い3症例に対して、Long PHILOS(反転して使用)を用いた内固定を行った。いずれの症例も遠位骨片に5本以上の3.5㎜ screw径のlocking screwがpoly axialに挿入されたことから、術後早期からリハビリを行い良好な術後成績が得られた。Long PHILOSは、挿入できるlocking screwが多い/poly axialにscrewが挿入できる/幅・厚が大きいなどの点から上腕骨遠位骨幹部骨折に対する内固定材の選択肢の一つになり得ると考えられた。

参考文献

  1. 高畑 智嗣、柴 佳奈子、山本 格ほか.
    上腕骨遠位骨幹部骨折に対するEnder釘を用いた小侵襲手術
    日本最小侵襲整形外科学会誌2015;15:19-25.
  2. 田嶋 光、 菊田 朋朱、川嶌 眞之.
    上腕骨遠位骨幹部骨折に対する前外方進入と後方進入の比較検討;
    骨折2001;23:179-183.
  3. 仲川 喜之、 酒本 佳洋、門野 邦彦ほか.
    上腕骨遠位骨幹端部骨折に対する髄内釘内外顆刺入法
    日本肘関節学会雑誌2005;12:119-120.
  4. 森谷 史朗、前原 孝、浅野 哲弘ほか.
    上腕骨遠位骨幹部骨折の治療経験
    骨折2012;34:441-445.
  5. 佐々木 了、田尻 康人、飯島 準一ほか.
    上腕骨遠位骨幹端部骨折では、適切なプレートのないことがある
    骨折 2013; 35 Suppl.:S146.
  6. 米田 英正、渡邉 健太郎、水野 直樹ほか.
    上腕骨遠位骨幹部骨折(遠位1/3)の手術的治療の検討
    骨折 2013;35 Suppl.:S146.

図表説明

図1:初診時単純レントゲン像
上腕骨遠位骨幹部骨折(AO12B1)を認め、肘頭窩位縁から骨折までの距離は47.8㎜(矢印)である。

図2:術後単純レントゲン像
術後5か月の現在、一次骨癒合が得られている。

図3:単純レントゲン像
右上腕骨骨幹部(AO12A3)/左上腕骨遠位骨幹部(AO12A1)病的骨折に多数のpunched out lesionを認める。

図4:受傷2か月時・手術前単純レントゲン像
軽度の仮骨形成と短縮・屈曲転位を認め、肘頭窩近位縁から骨折までの距離は40.6㎜(矢印)である。

図5:術後8か月時単純レントゲン像
Relative stabilityにより著明な外仮骨を形成して骨癒合が得られている。

図6:初診時単純レントゲン像
上腕骨遠位骨幹部骨折(AO12B1)を認め、肘頭窩位縁から骨折までの距離は16.6㎜(矢印)である。

図7:術後14か月時単純レントゲン像
軽度の仮骨形成を伴い骨癒合している。

図8:Narrow-LC-LCP/ Reconstruction-LCP/ PHILOSとスクリュー刺入本数

肘頭窩近位縁からの距離と挿入可能なscrew本数
Narrow- LC-LCP: 37mm(2本) 、54mm(3本)
Recon.-LCP: 32mm (2本)、52mm(3本)
PHILOS: 50mm(H hole 、10本)、42mm(G hole、9本)、30mm(E hole:7本)、D holeは外開きに挿入されるため、一方は穿破することがある。