整形外科

大腿骨転移性骨腫瘍に対する掻爬、術後放射線照射と骨セメント/インプラントを用いた再建の治療経験

千葉西総合病院整形外科・関節外科センター 増井 文昭

Key words

Curettage(掻爬)、Radiotherapy(放射線治療)、Oxygenation(酸素化)、骨セメント(Bone cement)

はじめに

がんは骨転移を起すことが多く、患肢機能が低下するため、QOL上問題となり、手術方法の選択で難渋することがある。がん骨転移患者の多くは高齢者で転移をきたしている段階で基本的には進行がんである。限られた余命、様々な合併症、骨粗鬆症などの問題があり、一番重要なことは余命期間のロコモの回避、QOL向上である。予後に応じて術式選択が行われ、予後不良な患者では緩和的手術、中等度以上の予後の患者に対しては機能や局所コントロールを考慮して掻爬や切除の上で再建が行なわれる。近年、がん治療の向上に伴い、長期生存例も増加してきており、今後、インプラント緩み/折損、感染などのインプラント関連合併症(Implant related complication:以下、IRC)が臨床上、問題になってくる1,2)。 今回、当科で手術治療を行った大腿骨転移症例のうち、掻爬、術後放射線照射および骨セメント/インプラントを用いた再建を施行した4症例について検討した。IRC予防目的で照射量を8Gyに減量して治療を行った症例の術後成績を含めて報告する。

対象および方法

対象症例は男性1例/女性3例、年齢51~86歳(平均70.5歳)、経過観察期間1年~3年1か月(平均1年9か月)であった。罹患がんは腎がん2例、乳がん2例、使用したインプラントはLocking compression plate (以下、LCP)3例、γtype long femoral nail1例、セメント人工骨頭2例であった。

治療方法

1:掻爬を施行
2:電気メス焼灼が可能な際は凝固モード(50W)で周囲の骨皮質を処理
3:骨セメント(アミカマイシン混入)を併用して内固定材や人工骨頭で再建
4:術後に放射線照射を施行

これらの症例に対して、照射量、再発、インプラント緩み/折損、骨修復(骨硬化、架橋形成)、術前と最終X線写真評価時の機能改善について調査した。機能評価はECOG Performance Status:以下PS3)、Karnofsky Performance Scale:以下KPS4)を用いて行った。

結果

照射量は30Gy1例、8Gy3例であった。経過観察期間中、再発およびインプラント緩み/折損は認めず、内固定を施行した骨折部および転移部分の修復は4例全例に認められたが、1例で一部に転移部分が進展していた。機能評価改善はPS1~4点(平均2.5点)、KPS10~70%(平均40%)で、新片桐スコアが低く、予後良好な症例の機能改善が良かった。また、新片桐スコアが高く、機能改善が低かった主な原因は他の転移巣の痛みや体力低下であった。

症例

症例1

63歳、男性、腎がん、左大腿骨転子下病的骨折、多発骨転移、新片桐スコア4点、PS(術前4点/術後0点)、KPS(術前30%/術後100%)
経過:転倒受傷し、当科受診、入院時の単純X線写真で左大腿骨転子下病的骨折、CTで腎がんが認められた。手術は掻爬、γtype long femoral nail固定、骨セメント充填(手術時間:1時間13分、出血量:390ml)を行い、術後放射線分割照射(30Gy)後に泌尿器科で治療を行った。
現在、術後3年1か月経過しているが、単純X線写真で病的骨折部は完全に修復され、再発を認めず全荷重で自立歩行中である(図1)。

症例2

81歳、女性、右大腿骨頚部病的骨折および近位骨幹部転移、多発骨転移、新片桐スコア2点、PS(術前4点/術後1点)、KPS(術前30%/術後70%)
経過:転倒受傷し、当科受診、入院時の単純X線写真で大腿骨頚部病的骨折、CTで乳がんが認められた。
手術は後方アプローチで進入、骨切り後にリビジョン用鋭匙で骨内を掻爬した。
近位部骨内を電気メス焼灼した上でセメントショートステム人工骨頭置換術を施行した。
さらに大腿骨遠位に小皮切を加え、大腿骨遠位LCPで予防的内固定を行い、術後に単回照射(8Gy)を施行した(手術時間:1時間43分、出血量:200ml)。
退院後は抗RANKL抗体、アロマターゼ阻害剤投与を行い、術後2年の現在、単純X線写真でステム遠位の転移部分は修復され、緩みや再発は認めず、全荷重で自立歩行中である(図2)。

症例3

51歳、女性、右大腿骨転子下病的骨折/転子部~遠位骨幹端骨転移、多発骨転移、新片桐スコア7点、PS(術前4点/術後2点)、KPS(術前30%/術後60%)、抗RANKL抗体で顎骨壊死
経過:乳腺外科で右大腿骨近位部転移に対して単回照射(8Gy)を施行後に病的骨折を合併し、当科入院となった。手術は後方アプローチで進入、骨切り後にリビジョン用鋭匙で骨内を掻爬した。
近位部骨内を電気メス焼灼した上でセメントロングステム人工骨頭置換術を施行した。
さらに大腿骨遠位に小皮切を加え、大腿骨遠位LCPで予防的内固定を施行した(手術時間:2時間46分、出血量:290ml)。
術後は単回照射(8Gy)を施行し、顎骨壊死の既往があるため骨修飾薬の投与は行わず、緩和病院へ転院した。術後1年の現在、単純X線写真で骨折部および大腿骨遠位転移部分は修復されているが、ステム中央部に骨破壊像を認めている。自立歩行中で、ステム中央部の転移部の進展/痛みを認める際は追加照射を行う予定である(図3)。

症例4

86歳、女性、右大腿骨骨幹部病的骨折、左大腿骨転子下骨転移、多発骨転移、新片桐スコア6点、PS(術前4点/術後3点)、KPS(術前30%/術後50%)
経過:他院にて右大腿骨骨幹部病的骨折に対して内固定を施行後も疼痛にて離床困難なため、当科紹介となった。手術は右側に対して掻爬、骨セメント充填、内固定追加、左側に対して掻爬、骨セメント充填、予防的内固定を施行した(手術時間:3時間、術中出血量:610ml)。
術後は単回照射(8Gy)を施行、車椅子、歩行器歩行が可能になり緩和病院に転院となった。術後1年で腫瘍死となったが、単純X線写真で病的骨折部に一部修復像を認め、折損や再発は認めなかった(図4)。

考察

転移性骨腫瘍では予後に応じて術式選択が行われ、予後評価には新片桐スコアが頻用されている5)。予後不良な患者では緩和目的として手術が行われ、中等度以上の予後の患者に対しては機能や局所コントロールを考慮して術式を決定する(図5)。単発転移では切除して再建を行うが、中等度予後の症例では切除または掻爬の上で再建する。
掻爬を施行した際は腫瘍が残存しているため、再発予防のため術後放射線照射が行なわれる。
放射線照射は通常、8Gy単回か20~40Gyの分割照射が行われるが、30~40Gyの分割照射で骨障害、50Gy以上では骨細胞・骨芽細胞の壊死を合併する6)。
除痛効果は単回照射、分割照射に有意差はなく、骨折予防効果は単回照射(3.3%)と分割照射(3%)は同等とされているが7)、一方で再照射率は単回照射(20~22%)が分割照射(7~8%)より高くなっている7-9)。また、照射後に転移巣は石灰化により修復され、単純X線写真上は骨濃度は上昇するが、骨質や強度は正常には回復しないとされる10)。
放射線感受性は癌の種類、悪性度、増殖能、酸素濃度などにより異なってくる。放射線の効果は酸素濃度が高い部分に高く、通常は腫瘍の中心部は低酸素状態で感受性は低い。
分割照射は辺縁部の酸素下がん細胞が死滅することを利用し、低線量を複数回にわけて分割照射することで腫瘍を縮小させる(図6)。
単回照射は一回線量は多く効果は高いが、低酸素がん細胞や増殖休止期のがん細胞への効果は不十分なため再照射率が高くなる 11)。
照射量の増加に比例して骨質は不良となり、今後、長期生存例では脆弱性骨折・偽関節、インプラント緩み/折損などのIRCが問題となってくる。
症例1で掻爬、術後放射線照射(30Gy)と骨セメントを併用した再建を行い、良好な術後成績が得られ、本治療の有用性が示唆された。照射量は30Gyを越えると不可逆的な骨破壊を起こすとされ12)、照射量が少ない方が生物学的活性、骨組織修復、IRC予防の観点では有利である。
掻爬を施行した際は内部の放射線感受性の低いがん組織は切除され、辺縁に感受性が高い酸素下がん細胞が残存していることに着目し(図6)、単回照射/分割照射の除痛・骨折予防効果を踏まえて3例に対して照射量を8Gyに減量して治療を行った。
1例で一部に転移巣の進展を認めたものの、全例で骨折部および転移部分の修復像を認め、IRCを合併しなかったことから、掻爬および術後単回照射療法の有用性が示唆された。骨セメントは骨巨細胞腫で拡大掻爬術時に頻用され、重合熱やモノマーの抗腫瘍効果により再発予防に有用とされている。
3mmのセメント厚で重合熱により周囲の骨組織は2mmほど壊死するとされ13) 、残存したがん細胞に対しても効果が期待できる。さらに圧縮強度が高く、加えてDrug delivery carrierとして抗菌薬混入によりIRC(インプラント折損、感染)対策となる。
一部に転移巣の進展を認めた症例3は術後に骨修飾薬/抗がん剤の投与が行なえなかった。
放射線照射と骨修飾薬の併用治療は放射線照射または骨修飾薬単独症例より有効との報告があり14)、顎骨壊死の既往のため骨修飾薬の投与ができなかったことも原因の一つと考える。骨セメントに骨修飾薬を混入することで局所コントロール向上が期待され、特に症例3のような顎骨壊死症例での使用は有用と考える。
今後、長期生存例の増加に伴い、IRCに対する予防対策が必要になってくる。長期生存が期待できる症例(新片桐スコア4~6点)に対して掻爬、術後放射線照射と骨セメント/インプラントを用いた再建を行う際は予後、骨修飾薬/抗がん剤・分子標的薬投与、局所コントロールなどを個々の症例ごとに検討し、IRC予防(骨組織へのダメージの軽減)のために照射量の減量を考えていくことも重要と考える。
今回、単回照射による治療を3例に行ったが、1例で一部に転移巣の進展を認めたことから、今後は20Gy分割照射も検討していく予定である。
大腿骨近位部転移の再建材料として通常型・腫瘍用人工骨頭が使用される。小転子下で切除して人工骨頭置換を施行した際のインプラント代は腫瘍用人工骨頭は通常型人工骨頭よりも約140万円も高額になっている。
がん骨転移患者の多くは、高齢者で転移をきたしている段階で基本的には進行がんであり、限られた医療財源の中で余命期間のロコモの回避、QOL向上のために治療方法やインプラントの選択が整形外科医に求められてくると考える。

結語

1)大腿骨転移性骨腫瘍・病的骨折に対して、掻爬、術後放射線照射、骨セメント/インプラントを用いた再建を施行し、良好な術後成績が得られた。
2)術式選択は年齢、予後、機能、骨修飾薬投与/全身治療、局所コントロール、IRCなどを総合的に評価して行うことが重要である。
3)長期生存が期待できる症例に対しては、骨修飾薬投与/全身治療の有無を踏まえて、IRC予防のために照射量の減量も検討していくことも重要である。

参考文献

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図表説明

図1

症例1:大腿骨転子下病的骨折を認め、掻爬、γtype long femoral nail固定、骨セメント充填、術後放射線分割照射(30Gy)を施行した。術後3年1か月経過しているが、転移部分は修復され、再発を認めない。

図2

症例2:大腿骨頚部病的骨折および近位1/2まで骨髄内転移を認める。骨内掻爬後に電気メス焼灼した上で、セメントショートステム人工骨頭置換術/大腿骨遠位LCPで予防的内固定と術後単回照射(8Gy)を施行した。術後2年の現在、ステム遠位の転移部分は修復され、ステムの緩みや再発は認めない。

図3

症例3:大腿骨転子下病的骨折、転子部~遠位骨幹端に転移を認める。骨内を掻爬後に近位部骨内を電気メス焼灼した上で、セメントロングステム人工骨頭置換/大腿骨遠位LCPで予防的内固定と術後単回照射(8Gy)を施行した。術後1年の現在、骨折部および大腿骨遠位転移部分は修復されているが、ステム中央部に骨破壊像を認めている。

図4

症例4:右大腿骨骨幹部病的骨折と左大腿骨骨幹部転移を認める。右側に対して掻爬、骨セメント充填、内固定追加固定/左側に対して掻爬、骨セメント充填、予防的内固定と術後単回照射(8Gy)を施行した。術後1年で腫瘍死となったが、折損や再発は認めなかった。

図5:予後に応じた切除縁と再建方法

予後に応じて再建方法を選択する。

図6:術式と放射線照射

内固定単独症例:腫瘍内部の低酸素がん細胞は放射線感受性が低く、効果が低い。
掻爬症例:辺縁の酸素下がん細胞は放射線感受性が高く、効果高い。