循環器内科

心臓カテーテル

心臓カテーテル検査と256列マルチスライスCTの比較

今までは、狭心症の原因となる冠動脈(心臓をとりまく血管)の狭窄(つまり)を発見するために、直接手足の動脈からカテーテル(管)を入れていく心臓カテーテル検査が当たり前のように行われてきました。

しかし最近、新しいCT機器であるマルチスライスCTが開発され、欧米の一流病院では、心臓カテーテル検査に代わって、冠動脈の狭窄の発見に使われるようになりました。このマルチスライスCTを用いると、普通のCT検査のように、大きな輪のような機械の中を身体がくぐり、数十秒ほど息を止めるだけで、冠動脈の異常がわかります。造影剤を使う点では、心臓カテーテル検査と差がありませんが、動脈に針を刺してカテーテルを入れていく必要がないため、危険性はほとんどなくなりました。四肢の動脈に針を刺すと、動脈の血圧は高いため、検査後の止血がきわめて重要です。昔は足の付け根からカテーテルを入れていましたが、それでは検査後ベッドの上で数時間安静にしていることが強要され、トイレにも行けず腰も痛くなり、食事も取りづらいという。かなりの苦痛を伴います。最近は肘や手首の動脈を用いることにより、これらの不具合がかなり軽減されていますが、止血がうまくいかないと大出血や大きな血腫(血の塊)が生じて危険な状態になる可能性がある点では、変わりありません。またカテーテルを手足の血管から心臓まで進めていく過程で、カテーテルが血管を傷つける可能性は低いながら常に存在します。また、カテーテルに付いた血の塊が脳にとんで、脳梗塞を起こす可能性も0ではありません。マルチスライスCTでは、造影剤を使う場合でも手の静脈から点滴をするように造影剤を注入するだけですので、危険性の高い動脈には一切触れません。したがって、動脈に針を刺してカテーテルを入れていくことによる危険性は全く生じません。撮影時間も1分以内で、検査後も特別な止血操作とか安静時間は必要でなく、外来での待ち時間中に検査を終えてそのまま帰宅できる、という大きなメリットがあります。

以上のように、マルチスライスCTは、身体に優しく安全な検査法として、煩雑な心臓カテーテル検査に代わっていくものと考えられています。

現在マルチスライスCTは、その機能によって、8列、16列、32列、40列、64列、256列、320列という種類があります。列数の多いものほど高性能と考えられています。2004年度頃から16列を主体に日本に導入され始めましたが、まだまだ数が少なく、非常に高価であることもあり、導入できる病院はほんの一握りです。日本全国で256列を超えるマルチスライスCTを保有している病院は数十か所と思われています。さらに、普及している高性能のマルチスライスCTでさえ、息止め時間が10〜20秒必要で、検査後の解析に20〜30分かかることも事実です。また、不整脈が少しでもあると、CTの画像が乱れ、また心拍数が遅過ぎたり速過ぎたりすると、それだけで良い画像が取れなくなってしまうことが指摘されています。つまり、今までのマルチスライスCTにも、それなりの弱点があったわけです。

256列マルチスライスCT(フィリップス社製)

“このCTは世界最高峰の性能を誇り、脈を遅くするベータ遮断薬という薬を事前に服用する必要が全くなく、どんな不整脈があっても関係なく撮影できる現在のフィリップス社製心臓CTをさらに発展、改良したものです。撮影システム、コンピューターシステム全てが新しくなり、機械自体が全部新規に開発された形となります。最短1.7秒程度での冠動脈の撮影が可能で、診断のためのカテーテル検査はほとんど不要になり、狭心症のスクリーニングはこのCTのみでできると考えております。”

 

三角 和雄

2008年11月より、千葉西総合病院にはフィリップス社製“Brilliance iCT”という256列マルチスライスCTが導入されました。このマルチスライスCTは当初、世界限定8台(アジア割当1台のみ)となっており、当院が世界でもっとも早く導入されました。

このCTが備えるBeat to Beat Delay Argorhythmというメカニズムは、心拍数が不整脈によって変化しても、それに追従してCTが機能するもので、心臓領域ではトップ・ブランドであるフィリップス社が、世界で唯一もっている特許です。

このメカニズムにより、心拍数が不整であったり、脈が速過ぎたり遅過ぎたりしても、ほぼ正確に冠動脈の狭窄度を検出することができます。また、検査時間も5〜7秒で、検査後の解析時間も10分以内と短縮されています。また造影剤がなくてもある程度冠動脈の状態が把握できるため、病変があるか、ないかという判断には造影剤を用いない単純CTとしても使用でき、特に造影剤アレルギーがある患者様にも検査を行うことができます。

以下に、心臓カテーテル検査、従来のマルチスライスCT、フィリップス社“Brilliance 64”マルチスライスCTおよびフィリップス社“Brilliance iCT”256列マルチスライスCTを比較して表を示します。

狭心症の検査法の比較

心臓カテーテル検査 従来のマルチ
スライスCT
Philips社製
64列マルチ
スライスCT
Philips社製
256列マルチ
スライスCT
動脈損傷、不整脈、脳梗塞等の
合併症の危険性・検査中、
検査後の出血の危険性
あり なし なし なし
造影剤アレルギーの危険性 あり あり あり
(単純CT使用の場合はなし)
あり
(単純CT使用の場合はなし)
検査時間 30分〜1時間 (撮影時間)
1分以内
(撮影時間)
10秒以内
(撮影時間)
5秒以内
入院の必要性 あり
(日帰りでも数時間は病院内に拘束される)
なし なし なし
外来での検査 不可能 可能 可能 可能
検査後の当日運転 不可能 可能 可能 可能
費用 5〜10万円 6〜7千円 6〜7千円 6〜7千円
STENT治療後の定期検査 不可能 可能 可能
64スライス
より高度
細血管の診断 高度 不可能 可能 可能
64スライス
より高度
検査の信頼性 高度 中等度 高度 高度
64スライス
より高度
不整脈・心筋症による
検査の限界
なし あり なし なし

診断のための心臓カテーテル検査が、いかにコストが高く、相対的危険性があり、手間もかかり、心理的な不安を伴うかがわかると思います。狭心症の診断のための心カテーテル検査を行うことは、今や馬鹿げた時代になってきています。

お問い合わせは、当院の代表電話番号より循環器コーディネーターをお呼び出し下さい。