整形外科

後期研修レジデントレポート (齊藤 雅人) 【症例3】

手術治療を要した多発痛風結節の1例

症例

66歳男性。20年程前に高尿酸血症、痛風発作を発症し、同時に手指、足関節の腫脹を自覚したため近医にて内服治療を行っていたが、8年程前より内服を自己中断した。その後、4、5年前より四肢の関節部の腫瘤を認め切除が必要であると言われていたが、手術を希望せず経過観察とされていた。今回、全身の関節の腫脹、疼痛を主訴に当科受診となった。

既往歴

特記すべきものなし。

身体所見

初診時、四肢の関節に多発する腫瘤を認め、右中指PIP関節、右足関節外果に生じた腫瘤は感染を伴っていた(図1)。

(図1)右足関節外果と右中指PIP関節に生じた腫瘤は感染を伴い自壊している。

画像所見

単純X線:右足関節外果、右中指PIP関節に腫瘤陰影と骨浸食像を認める。
右足関節CT:本疾患に特徴的な、overhanging marginを認める。
MRI:T1強調画像で低信号から中等度の信号を示し、T2強調画像で内部不均一な低信号から中等度の信号を示す腫瘤を認める。(図2)

(図2)足関節単純CT:前額断像
足関節単純MRI:前額断像
左:T1強調画像 右:T2強調画像

検査所見

血液検査

[血算]WBC 50.0×102 /μl、RBC 338×104 /μl、Hb 10.2 g/dl、Ht 31.9 %、MCV 94.0 fl、MCH 30.2 pg、MCHC 32.0 %、Plt 26.2×104/μl
[生化]CRP 0.60 IU/l、AST 18 IU/l、 ALT 5 IU/l、ALP 282 IU/l、TP 7.2 g/dl、Alb 3.8 g/dl、T.Bil 0.4 mg/dl、T.chol 158 mg/dl、TG 94 mg/dl、UA 9.8 mg/dl、BUN 22.5 mg/dl、Cre 1.18 mg/dl、Na 143 mEq/l、K 4.1 mEq/l、Cl 110 mEq/l、Ca 8.7 mg/dl、IP 3.1 mg/dl、BS 97 mg/dl
リウマチ因子 1 U/ml、MMP-3 80.9 ng/ml、抗核抗体 40倍未満、抗DNA抗体3.2 IU/ml、抗U1-RNP抗体 0.7 U/ml、抗RNP抗体 (-)、抗Sm抗体 (-)、抗SS-A抗体 (-)、抗Scl-70抗体 (-)、Ig-G 1559 mg/dl、Ig-A 285 mg/dl、Ig-M 60 mg/dl、CH50 47 U/ml、C3 98 mg/dl、C4 42.8 mg/dl、PTH-INTACT 29 pg/dl、カルシトニン 23 pg/dl、sIL-2レセプター 577 U/ml、抗セントロメア抗体 (-)、MPO-ANCA (-)、PR3-ANCA(-)、FT3 2.68 pg/ml、FT4 1.10 ng/ml、TSH 6.28 μIU/ml
[凝固]PT 11.1 秒、PT-INR 1.00 、APTT 25.2 秒

尿中尿酸排泄量0.74mg/kg/時
尿酸クリアランス(60分法:図3):9.69 ml/分
クレアチニンクリアランス(60分法):264.8 ml/分
尿酸クリアランス/クレアチニンクリアランス比:3.66 %

(図3)尿酸クリアランス、Ccr試験実施法(60分法)
細菌培養検査

右中指結節:Staphylococcus aureus 2+
右足関節外果部結節:Enterobacter cloacae 3+、Klebsiella oxytoca 2+

手術所見

右足関節外果:
感染が併発した腫瘤を一塊にして切除後、腓骨外果の感染巣を可及的に掻爬した。皮膚再建は形成外科にてVeno accompanying artery adiofascial(VAF)を施行した。(図4)

右中指:
腫瘤はPIP関節を中心にMP関節にまで及んでいたため、中手骨遠位1/3の位置で切断を行った。

(図4)外果の腫瘤を切除後、VAFを施行。

病理検査結果

真皮から皮下にかけて、白色で脆いチョーク様の結晶から構成された複数の結節形成と、その周囲には炎症性細胞浸潤や異物反応性の肉芽形成、線維増生を認めた。簡易偏光顕微鏡下でチョーク様の結晶は針状の構造物が見られ、尿酸ナトリウム結晶(尿酸結晶:図5)と考えられた。さらに、針状の構造物の周囲に長斜方形を示すピロリン酸カルシウムと推察される結晶成分も混在していた。

(図5)痛風関節炎を起こした関節液から得られた
尿酸ナトリウム結晶(偏光顕微鏡写真)

考察

本邦における高尿酸血症の頻度は成人男性の20~25%、痛風の有病率は約1%と報告されている。痛風結節は高尿酸血症の期間が長く高度である程出来やすいと考えられている。痛風患者の20%に発生するとの報告があるが、近年は治療法の確立により減少傾向にある。
高尿酸血症は血清尿酸濃度7.0mg/dl以上と定義され、尿中尿酸排泄量と尿酸クリアランスにより尿酸産生過剰型、尿酸排泄低下型、混合型の3つの病型に分類され(図6)、それぞれ1割、6割、3割程度の頻度とされている。本症例は尿中尿酸排泄量0.74mg/kg/時、尿酸クリアランス9.69 ml/分であり、尿酸産生過剰型と考えられた。原因として遺伝性疾患(レッシュ-ナイハン症候群、ホスホリボシルピロリン酸合成酵素亢進症など)、細胞増殖の亢進・細胞破壊の亢進(悪性腫瘍、腫瘍融解症候群など)、甲状腺機能低下症、外因性・高プリン食、薬剤性などが挙げられる。本症例は遺伝性疾患に随伴する精神発達遅滞や発達障害・桃源病の合併や家族歴、悪性腫瘍の既往、薬剤内服歴はなく、採血上も甲状腺ホルモンの数値が正常であった。患者は、発症までの数十年に渡り毎日の様に豚肉を自ら屠殺して大量に食し、ビールを3L/日以上摂取していたと聴取しており、長年に渡る高プリン食の嗜好が原因と考えられた。

(図6)尿中尿酸排泄量と尿酸クリアランスによる
病型分類

高尿酸血症は過食、高プリン・高脂肪・高蛋白食嗜好、常習飲酒、運動不足などの生活習慣によるメタボリックシンドロームなどと深く関係し、生活習慣の改善が高尿酸血症の治療として最も大切である。痛風関節炎を繰り返す症例や痛風結節を認める症例は生活指導だけでは尿酸蓄積を解消することは難しく、薬物治療により血清尿酸値を6.0mg/dl以下に維持することが望まれる。無症候性高尿酸血症については尿酸結石を含む腎障害や心血管障害のリスクと考えられる高血圧、虚血性心疾患、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの合併症を有する場合は血清尿酸値8.0mg/dl、合併症がない場合は血清尿酸値9.0mg/dl以上で薬物療法を考慮する。治療薬は尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロンなど)や尿酸生成抑制薬(アロプリノールなど)があり、尿酸排泄低下型には尿酸排泄促進薬を選択する。尿中の尿酸排泄量が多い患者(尿酸産生過剰型)に尿酸排泄促進薬を使用すると尿路結石を発症させやすいため、尿酸生成抑制薬を選択することが望ましい。本症例は産生過剰型であることから生成抑制薬を投与し、内服開始から10ヶ月の現在、痛風発作や尿路結石の発症は認めず、血清尿酸値6.4mg/dlと改善傾向にある。
痛風関節炎は尿酸塩結晶が関節内に沈着することにより引き起こされる。鑑別疾患として化膿性関節炎、偽痛風、関節リウマチ、外反母趾、爪周囲炎、蜂窩織炎、靭帯損傷、滑液包炎など(図7)が挙げられ、米国リウマチ学会の診断基準(図8)が頻用される。著しい疼痛を伴い、患者のQOLを低下させるものは治療の対象となる。治療は、前兆期ではコルヒチン、炎症極期ではNSAIDsと副腎皮質ステロイドが選択される。炎症極期を過ぎた後は、個々の病態に応じた高尿酸血症に対する治療が行われる。

(図7)痛風関節炎の鑑別診断
(図8)アメリカリウマチ学会における痛風関節炎の診断基準

高尿酸血症が長期間持続すると、尿酸塩結晶が軟骨、滑膜、滑液包、腱、皮下組織などに沈着し、痛風結節を生じる。血清尿酸値が高く罹病期間が長いほど発生頻度が高くなり、耳介、母趾などの血流が乏しく組織液が貯留しやすい部位、機械的刺激を受けやすい部位に多く発生する。
単純X線ではover hanging margin徴候が特徴的で、関節内の尿酸塩結晶による炎症を繰り返し、骨内へ侵蝕することで骨膜が刺激され骨が痛風結節を取り囲むように突き出ることにより生じるとされている。また、変形性関節症とは異なり骨軟部病変があるにも関わらず、関節裂隙が保たれている場合が多く、更に骨内侵蝕もしくは骨内痛風結節では境界明瞭な長円形または円形の打ち抜き像も特徴である。MRI所見は、YuらはT2強調画像で低から中等度信号の骨破壊像を示す腫瘤を認めれば痛風結節が疑われるとし、またChenらは関節内にT2強調画像で低信号領域があり、ガドリニウム(Gd-DTPA)で周囲が不均一に増強される場合は痛風結節が示唆されると報告している。ただし、画像所見だけでは診断に至ることは困難なことが多く、最終的には病理診断により確定診断に至ることが多い。
痛風結節を縮小・消褪させるためには、血清尿酸値を一般痛風患者の治療目標である5~6mg/dlより低めの4~5mg/dlにコントロールするのが良いとされ、保存的治療に抵抗性の場合に手術が必要となる場合がある。Straubらは、①機能障害を合併しているもの、②瘻孔や感染を生じているもの、③疼痛があるもの、④神経を圧迫しているもの、⑤整容上問題があるもの、⑥尿酸プールの減少が全身的な尿酸代謝の改善に好影響を与えると思われるものが適応と報告している。さらにHankinらは、痛風結節が骨内や腱内に存在し、骨折や腱断裂の危険性があるもの、金子らは頻回に痛風発作を起こす症例に対し手術治療を行い、発作頻度を著明に減らすことに成功したと報告している。本症例は整容上の問題、瘻孔や感染の併発、疼痛、関節の拘縮を起こしていることなどから手術適応と考え、切除術を施行した。また同時に尿酸治療薬術後は腫瘤の再発や痛風発作もなく、現在のところ良好な経過である。