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大動脈センター

2009年の大動脈瘤手術件数は計341例(胸部213例、胸腹部13例、腹部115例)でした。

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大動脈瘤が心配な方へ(5)

前回は、急性大動脈解離という疾患についてと、その症状および診断の困難さについて述べました。今回は、急性大動脈解離と診断が確定してからの治療について述べます。

まず、治療の第一は、胸や背中の痛みの除去です。急性解離による痛みは、ほとんどの場合、死を予感させる程激烈なものなので、当然、死の恐怖を伴います。ですから、もうひとつは、死の恐怖を除去することも必要です。この種類の痛みと死の恐怖を除去するためには、強い鎮痛剤が必要で、大抵、“麻薬”が使われます。それでも除去できない場合は、全身麻酔で眠って頂き、人工呼吸器を着けることが必要になります。同時に、大抵は血圧が非常に高いので、血圧を下げる点滴を行い、集中治療室での管理となります。

血圧が高い場合は、まだ良いのですが、ここで既に、血圧が50、60しかなく、いわゆるショック状態と言いますが、こういう状態だと文字通り、一刻を争う事態でして、ほぼ100%緊急手術が必要なので、そのまますぐ手術室へ直行することが唯一の救命手段になるのです。
このような“超重症”でない場合、つまり、血圧が高い場合は、痛みを除去する治療を進めつつ、すでに診断が確定しており、すぐに手術が必要(緊急手術と呼んでいます)か不要かも決定していますので、緊急手術が必要な場合は、その準備も同時に進められるのです。

では、緊急手術が必要か不要かは、どこで分けられるのでしょうか?それは、解離による偽りの血液の流れ道(偽腔と呼びます)が、心臓から出てまっすぐに上に向かって行く大動脈(上行大動脈といいます)に及んでいるかどうかが決め手になるのです。つまりは、偽腔が上行大動脈にあれば緊急手術が必要で、なければ緊急手術は“原則的には”不要です。この区別はとても大切で、時に、惑わされる場合があるのです。誰が見ても明らかに偽腔が上行大動脈に認められれば問題はないのですが、あるのかないのかはっきりしない、ということがあるのです。この場合には、“疑わしきは罰せよ”(裁判とは逆ですね)で、手術室で胸を開いて確かめることが必要となります。そして、目の前で、偽腔が上行大動脈にあることが確かめられたら、そのまま、目的の手術を行うことになります。こういうことが、1、2%の割合で起こります。

大抵の場合、CT(断層撮影)で偽腔ははっきりわかりますので、上行大動脈にあれば、すぐ手術ということになるのですが、さらに大切なことは、時間です。そうです、診断確定までの時間もさることながら、そこから、手術開始までの時間も、大切な要素で、これがいたずらに長いと、助かる方も助からないということになるのです。それに関しては、色々な話があります。たとえばこんな話があります。ある病院で、循環器科医により、診断がつき、緊急手術が必要だと判断され、心臓外科医に相談が持ち込まれ、そこまでは、非常に迅速な処置だったのですが、そこから先がいけませんでした。こともあろうにその外科医は、夜中のことですし、患者の状態も安定しておりましたので、翌朝から手術を行うつもりで話を進めたのです。当然、患者の家族には、「今すぐ手術する必要はなく、明くる朝、9時からの予定で行います。」と話してありました。ところが、その1時間後、患者の具合が急変し、そのまま亡くなってしまったのです。死因はもちろん、急性解離による大動脈破裂でした。

このように、この疾患はすべてが時間との戦いなのです。「今は落ち着いている。」という言葉は、何の助けにもなりません。そうです、「一寸先は闇」なのです。ですから、私達は、「こんな方がおり、緊急手術の必要があると思うのですが。」と相談を受けたら、その場で、手術の準備を始めることにしています。よその病院から運ばれる場合は、搬送時間中に手術の準備が整います。もちろん、夜中だろうが、正月の最中だろうが関係ありません。私自身、何人の急性解離の方を手術したことでしょう、それでも、こういう相談を受けると、いつも時間の経過をより強く意識している自分に気がつきます。準備の時間がとても長く感じられて仕方がありません。中には、家族の中で、「外国にいる本人の息子がおり、今から連絡を取るから、顔だけ見せてやってからにしてくれ。」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、そんな場合には、「お願いですから、とにかく必要なことを優先させて下さい。」と、頼み込んで手術室に向かうようなことがあるのです。それほど、この疾患は、すべてが時間との戦いなのです。

今回は、急性解離の治療、中でも、緊急手術が必要な場合について述べました。次回は、“原則的に”緊急手術の必要がない急性大動脈解離について、述べたいと存じます。

大動脈瘤破裂、解離で皆様の大切な方と突然悲しいお別れになってしまうのを未然に防ぎたい、とそれだけを念じてやみません。連絡をお待ち申し上げます。

(6)に続く

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大動脈センター 市原 哲也