私共は、当施設開設以来6年間(平成13年現在)に渡り、心臓病センター長である三角和雄先生の厳しい御指導の下に手術をさせて頂いております。その間、感ずることがいくつかございますが、そのうち、最近特に強く感ずることについて述べたいと存じます。
最近、大動脈瘤手術件数が飛躍的に増加し、特に、急性大動脈解離スタンフォードA型(心臓から出たばかりの血管(“上行大動脈”と呼びますが)に解離が及んでいるもの)の手術は6年間で101例となり、最近の2年間では、毎年30例を越えています。これに伴い、真性瘤(解離ではない)の破裂に対する手術も増えております。つまり、解離にせよ、真性瘤にせよ、“大動脈瘤破裂”に対する手術が確実に増加しつつあるということです。
これらの疾患には、手術、それも見つかり次第至急行う、緊急手術しか救命の方法はございませんが、予定の手術より、明らかに救命率は低くなります。理由は、病院に到着時に血圧が50、60しかなく、いわゆる、ショック状態で、間に合わない場合が多いからです。これに対して、予定が立てられる手術(定例手術と申しておりますが)だと、危険率(死亡率)は5%を切り、非常に安全な手術であると言えます。
特記すべきは、緊急手術をお受けになった方の大半が、高血圧をお持ちで、しかも、以前からずっと、“大動脈瘤があるよ”と、言われているという事実です。中には、“今は手術の必要がない。”、“手術なんかしたら絶対死ぬ。”、“破れたら手術すればいい。”などと言われ、そのままにしていた方が多いのです。たとえば、昨年11月に亡くなった、60代の男性は、大動脈瘤のため、半年毎にCTをお受けになっていながら、その破裂が原因で、ショック状態で運ばれ、緊急手術の甲斐がありませんでした。この方は、背中側の大動脈(下行大動脈と言いますが)が、7cmに膨らんでいながら、かかりつけの先生に“破れたら手術すればいい、まだ早い。今やると死ぬぞ。”と言われていたのです(家族談)
このように、大動脈瘤のため医師にかかっておりながら、その破裂で緊急手術になる、という方は例を挙げれば切りがありません。これまで、大動脈瘤を指摘されていない方は仕方がないと言えましょうが、動脈瘤について診て貰っていながらその破裂で緊急手術となり、更に、助かればまだ宜しいのですが、亡くなると、それはもう残念無念でございます。私共と致しましても、悔しくてなりません。
大動脈瘤に関しては、指導する側の認識が正しくない場合が多いものですが、理由は、いくつか挙げられます。順番に参りますと、
- 大動脈瘤手術成績が悪い、やると死ぬから、しない方が良い、と思われている。
これは、私共、心臓血管外科医の責任であるのですが、成績には、非常に大きな“ばらつき”があります。悪い施設は非常に悪く、良い施設は非常に良いのです。これは、現在の日本の心臓血管外科施設が多過ぎるため、患者があちこちに散らばり過ぎであることが原因なのです。動脈瘤手術件数が年間3例、あるいは5例などという施設から、年間80例、100例という施設まで存在し、当然、成績も反映され、件数の多い施設は好成績です。 - 大動脈瘤は簡単には破れない、と思われている。
いわゆる、手術適応が曖昧なのです。これも、はっきりと適応についての議論がなされない医療者側の責任なのですが。ですから、7cmの瘤も、“まだいい。”ってなことになってしまうのです。 - 大動脈瘤は破れてから手術すれば良い、と思われている。
手術成績の良い施設では、胸の瘤で5cm、腹の瘤で4cmを越えたら、必ず、手術が勧められます。破れる前に手術すれば助かる方も、破れてからでは助からないからです。 - 大動脈瘤による症状は、余程大きくならないと現れない。
胸の大動脈瘤では、胸痛、背部痛、声嗄れ等、腹の大動脈瘤では、腰痛等の症状が現れるのは、かなり大きくなってからです。では、なぜ見つかるかと言いますと、別の病気で病院にいらっしゃった際の、検査で“偶然”見つかることが多いのです。たとえば、咳のため、レントゲンを撮ったら変な影があると言われ、調べてみると胸の大動脈瘤だった、とか、便秘がちで、おなかの超音波をやったら、大動脈瘤が見つかった、とか。大動脈瘤の見つかり方はこのような“別件逮捕”が圧倒的に多いのです。ですから、症状は、まず出ない、出たら危険信号と考えるべきなのです。
代表的なものは、このようなものでしょう。とにかく、大動脈瘤に関しては、一様に、認識が甘いのです。ですから、大動脈瘤があると言われている方、あるいは家族や知人に大動脈瘤があるという方がおいでで気になっていらっしゃる方には、まず、連絡を下さいますようお願い申し上げます。そして、正しい治療をお受けになっておいでかどうか、確かめなさいますよう、切にお願い申し上げます。いえ、何も、現在行われている大半の治療方が悪いとか間違っているとは申しません。中には、ひどいことが行われていて、それを目の当たりにする機会が非常に多いものですから、このようにお願いするのです。そうです、自分の家族だったらこうするのになあ、と思うことを、専門的な立場で皆様にお話申し上げようということです。思い立ったら、以下の連絡先に連絡下さい。自分や大切な人の体は自分達で守りましょう。そのお手伝いを是非させて下さい。連絡をお待ち申し上げます。
連絡先
電話番号:047-384-8111(代表)
(電話交換手より大動脈センターへお繋ぎ致します)
また、お問い合わせフォームよりメールを頂ければ、メール又は電話でご連絡致します。
大動脈センター 市原 哲也










